銀行・金融業におけるAIの活用事例|メリット・デメリットも解説

近年、AIの導入が進む銀行・金融業界。業務効率化やセキュリティ強化など、様々な分野でAIの活用が期待されています。本記事では、銀行・金融業界におけるAIの重要性や具体的な活用事例、メリット・デメリット、活用成功のポイントなどを詳しく解説します。

銀行・金融業におけるAIの重要性

銀行・金融業におけるAIの重要性は、大きく分けて3つあります。1つ目は業務効率化です。AIを活用することで、これまで人手で行っていた作業を自動化・高速化できます。

2つ目はセキュリティ強化。不正検知や異常検知にAIを活用することで、人間だけでは対応が難しい高度な攻撃への対策が可能になります。

3つ目は顧客サービスの向上。顧客データを分析し、個々のニーズに合わせたサービスを提供できるようになります。このように、AIは銀行・金融業の様々な課題解決に役立つ重要な技術だといえるでしょう。

銀行・金融業でのAI活用事例

近年、銀行・金融業界ではAIの活用が急速に広がっています。業務効率化やセキュリティ強化、顧客サービス向上など、様々な分野でAIの力が発揮されつつあります。ここでは、住信SBIネット銀行、ゆうちょ銀行、三井住友銀行の3社を例に、具体的なAI活用事例を紹介していきます。

  • 住信SBIネット銀行
  • ゆうちょ銀行
  • 三井住友銀行

【住信SBIネット銀行】不正送金対策のAIモニタリングシステム開発

住信SBIネット銀行では、不正送金対策のためのAIモニタリングシステムを自社開発しています。同行では以前から、第三者による不正送金を防止するため、24時間365日体制で振込のモニタリングを行ってきました。しかし、高度化・巧妙化するサイバー攻撃に対し、より高度なモニタリング体制の構築が課題となっていました。

そこで同行は、最先端のAI技術を活用し、独自のモニタリングシステムを開発。このシステムは、新たな不正送金の疑いがある事例を自主的に学習し続けることで、より精緻な不正検知を可能にしました。過去のモニタリングデータをもとに、AIが不正送金の特徴を自動的に抽出。これにより、従来の手法では検知が難しかった巧妙な不正も見抜くことが可能になったのです。

加えて、このシステムは他の金融機関への提供も視野に入れているとのこと。同行のノウハウを業界全体で共有することで、業界を挙げての不正送金対策につなげていく方針だそうです。AIを活用することで、より安全・安心な金融サービスの提供を目指す同行の取り組みは、業界のモデルケースになるものと期待されます。

参考:住信SBIネット銀行|自社AI(人工知能)技術を活用した不正送金対策モニタリングシステムの高度化について

【ゆうちょ銀行】社内向け問い合わせ業務にAI技術の活用

ゆうちょ銀行では、社内向け問い合わせ対応業務の効率化のため、富士通のAI技術「FUJITSU Cloud Service Know-Flow DX」を導入しました。同行のパートナーセンターでは、全国の店舗や郵便局からの様々な問い合わせに対応していましたが、オペレーターの負荷が高く、また回答スキルの平準化が課題となっていました。

そこで導入されたのが、チャットボット形式のFAQシステムです。これまで蓄積された膨大な問い合わせ履歴をもとに、AIが自動的にFAQを生成。オペレーターだけでなく、店舗や郵便局の担当者も直接このFAQを検索できるようになりました。これにより、パートナーセンターへの問い合わせ件数が削減され、オペレーターの負荷が大幅に軽減。また、整備されたFAQを全国の担当者が共有することで、対応スキルの平準化も実現。

加えて、AIによる問い合わせ内容の傾向分析も可能になり、分析結果をもとに、FAQの更新ポイントを的確に把握できるようになりました。お客様への迅速かつ適切な対応にもつながっているそうです。富士通の先進的なAI技術を活用し、業務効率と品質の向上を両立させた同行の取り組みは、他の金融機関でも参考になるはずです。

参考:富士通株式会社|ゆうちょ銀行、社内向け問い合わせ対応業務に富士通のAI技術を導入し、業務を効率化

【三井住友銀行】自然言語によるサイバー攻撃検知

三井住友銀行では、サイバー攻撃対策にAIを導入し、新たな検知手法を確立しました。サイバー攻撃は年々高度化・巧妙化しており、従来の対策だけでは限界が見えつつあるのが実情です。そこで同行は、AIの自然言語処理技術を活用したサイバー攻撃検知に乗り出しました。

まずは世界中のサイバー攻撃情報を自動収集。これをAIが自然言語処理によって分析し、攻撃の傾向や手口を学習していきます。そして、学習結果をもとにセキュリティシステムに反映させることで、未知の攻撃も検知できるようになるのです。従来は人手で行っていた分析作業をAIが自動で担うことで、より迅速かつ網羅的な対応が可能になりました。

また、セキュリティ監視で不審な通信や挙動を検知した際にも、AIが活躍します。世界中の文献やブログ等の情報をもとにAIが学習した知識を活用し、検知した事象の分析を自動で行うのです。関連情報をリアルタイムに提示することで、セキュリティ担当者の原因特定や対処を支援。人の目では追いつかないサイバー攻撃にも、俊敏に対応できる体制が整いました。

同行のこうした先進的な取り組みは、世界のトップ企業40社と共同で進めているトライアルプログラムの一環で、サイバーセキュリティ分野における産学連携の象徴とも言えるでしょう。AI技術を存分に活用することで、ますます深刻化するサイバー攻撃に立ち向かっていく方針だと言います。

参考:三井住友銀行|AI を活用したサイバーセキュリティの強化について

銀行・金融業におけるAI活用のメリット

AIを活用することで、銀行・金融業界には様々なメリットがもたらされます。業務効率の向上やセキュリティの強化、新たな商品・サービスの創出など、AI技術の導入によって得られる恩恵は計り知れません。ここでは、銀行・金融業におけるAI活用のメリットを5つの観点から詳しく解説していきます。

  • 社内業務の効率化
  • 審査スピードの向上
  • セキュリティの強化
  • 新商品・サービスの創出
  • 金融市場動向の予測

社内業務の効率化

社内業務の効率化とは、AIを活用することで、これまで人手で行っていた様々な業務を自動化・省力化することを指します。例えば、大量の取引データの分析や、複雑な書類の処理など、手作業では膨大な時間と労力を要する業務をAIが瞬時にこなすことができます。

これにより、行員の作業負荷が大幅に軽減され、より付加価値の高い業務に注力できるようになります。また、人為的ミスのリスクも低減できるため、業務の正確性や品質の向上にもつながるでしょう。AIによる業務効率化は、生産性向上と経費削減の両面で大きなメリットをもたらすと言えます。

審査スピードの向上

審査スピードの向上とは、融資審査や与信管理など、金融機関の重要な意思決定プロセスにAIを活用することで、迅速かつ高精度な判断を実現することを指します。従来の審査では、行員が一つ一つの案件を手作業で精査していたため、膨大な時間と労力がかかっていました。

しかしAIを導入することで、大量の過去データから審査のパターンを自動学習し、リアルタイムで与信スコアリングを行うことが可能になります。これにより、審査にかかる時間を大幅に短縮できるだけでなく、人の目では見落としがちな関連性も見抜くことができるようになるのです。迅速かつ公平・適切な意思決定を支援することで、ビジネスチャンスを逃さずに済むでしょう。

セキュリティの強化

セキュリティの強化とは、AIの高度な分析能力を活用することで、サイバー攻撃や不正取引などのリスクに対し、より強固な防御を築くことを指します。昨今、金融機関を狙ったサイバー攻撃は巧妙化の一途をたどっており、人の目だけでは検知が難しいケースも増えています。

そこでAIの出番となるわけです。大量の取引データを常時監視し、通常とは異なるパターンを検知することで、不正の芽を早期に摘むことができます。また、世界中のサイバー攻撃情報をAIが自動分析することで、未知の脅威にも機動的に対処する体制を整えられるでしょう。高度化するリスクに対し、AIを味方につけることが何より重要だと言えます。

新商品・サービスの創出

新商品・サービスの創出とは、AIを活用して顧客のニーズを深く理解し、それを満たす革新的なソリューションを生み出すことを指します。従来の金融サービスは、画一的な商品設計が主流でした。しかし、AIを使って個々の顧客の行動パターンや嗜好を分析することで、一人ひとりに最適なサービスを提供できるようになるのです。

例えば、資産運用のアドバイスや保険の提案など、顧客のライフステージに合わせたきめ細かなサポートが可能になります。また、AIが新たな市場トレンドを発掘することで、先駆的な商品開発にもつなげられるでしょう。顧客満足度の向上と新たな収益源の獲得。AIは、金融ビジネスのイノベーションを加速する原動力になると期待されています。

金融市場動向の予測

金融市場動向の予測とは、株価や為替、商品相場などの変動をAIを使って高精度に予測することを指します。金融市場は、政治や経済、社会情勢など、実に様々な要因が複雑に絡み合って動いています。その動向を正確に読み解くことは、人間の能力では限界があると言わざるを得ません。

しかしAIなら、膨大な過去データから市場変動のパターンを学習し、リアルタイムで様々な指標を分析することで、高い確度で将来の市況を予測することができるのです。この予測を投資戦略に活かすことで、より高いリターンを狙えるでしょう。また、市場リスクの早期察知にもつながるため、ポートフォリオの安定性も高められると期待されています。

銀行・金融業におけるAI活用のデメリット

銀行・金融業において、AIは業務の効率化や顧客満足度の向上に役立つ一方で、いくつかのデメリットも存在します。

  • 個人情報・機密情報の漏洩
  • AIの過信による業務ミス
  • 一時的なコストの増大
  • AI人材の不足

これらのデメリットを踏まえ、AIを導入する際には、セキュリティ対策や人材育成、コスト管理について十分に検討する必要があります。以降で詳しく説明します。

個人情報・機密情報の漏洩

個人情報・機密情報の漏洩とは、AIシステムが保有する大量の顧客データや取引情報などが、サイバー攻撃や内部不正によって外部に流出してしまうリスクを指します。AIを活用するためには、膨大なデータを学習させる必要がありますが、それだけ情報流出の影響も大きくなってしまうのです。

万が一、個人情報や機密情報が漏洩した場合、金融機関への信頼は大きく損なわれ、ブランドイメージの低下や顧客離れにつながりかねません。また、損害賠償請求や行政処分などの法的責任を問われるリスクもあるでしょう。AIシステムのセキュリティ対策には万全を期す必要があります。具体的には、データの暗号化やアクセス制御の徹底、定期的なセキュリティ監査の実施などが求められます。加えて、内部不正対策や情報管理体制の強化も欠かせません。

AIの過信による業務ミス

AIの過信による業務ミスとは、AIによる判断を鵜呑みにしてしまうあまり、誤った意思決定を下してしまうリスクを指します。AIは膨大なデータから統計的な判断を下すため、一定の確率で誤りを含んでいます。しかし、人がそれを見抜けずに盲信してしまうと、重大な業務ミスにつながりかねないのです。

例えば、与信審査でAIが誤って与信スコアを算出し、本来融資すべきでない先に多額の融資を実行してしまった場合、多大な損失を被るでしょう。また、不正検知で誤検知が多発すれば、業務が滞るだけでなく、顧客との関係悪化も招きかねません。こうしたミスを防ぐには、AIの判断を全面的に信頼するのではなく、あくまで人間の意思決定を支援するツールと位置づける必要があります。AIの特性や限界を理解し、最終的な判断は人間が下すという姿勢が何より重要だと言えます。

一時的なコストの増大

一時的なコストの増大とは、AIシステムの導入や運用にかかる初期費用や、関連する設備投資などが一時的に経営を圧迫するリスクを指します。高度なAIシステムを一から構築するには、専門性の高いエンジニアの確保や、大規模な計算リソースの調達が必要になります。こうした投資負担は、短期的には経営のボトルネックになりかねないのです。

また、AIシステムの運用・保守にも継続的なコストがかかります。常に最新の技術動向を追いかけ、システムのアップデートを行っていく必要があるでしょう。これらのコストを適切にコントロールできなければ、経営効率の低下を招きかねません。一時的なコスト増を最小限に抑えるには、自社の経営資源を見極めた上で、段階的にAIを導入していくことが肝要です。全社的なAI戦略を策定し、優先順位を明確にしながら、計画的な投資を行っていく必要があります。

AI人材の不足

AI人材の不足とは、AIシステムの開発や運用を担う専門的な人材が社内に不足するリスクを指します。AIの活用には、機械学習や深層学習といった高度な技術に精通したエンジニアが不可欠です。しかし、こうした人材は業界全体でも獲得競争が激化しており、自社だけで十分な人員を確保するのは容易ではありません。

AI人材が不足すると、AIシステムの開発が遅れたり、運用上のトラブルに適切に対処できなくなったりするおそれがあります。また、AIに関する知見が社内で蓄積されず、ノウハウの継承が困難になる点も看過できません。結果として、AIの活用が停滞し、競争力の低下を招きかねないのです。AI人材の不足を解消するには、外部人材の登用や社内人材の育成など、多角的なアプローチが求められます。大学や研究機関との連携を強化し、優秀な人材の確保に努めると同時に、社内でのAI教育プログラムを充実させていく必要があるでしょう。

銀行・金融業でのAI活用成功のためのポイント

AIの活用は、銀行・金融業界にとって大きな可能性を秘めています。しかし、その実現には戦略的な取り組みが欠かせません。単なるブームに乗るのではなく、自社の強みを活かしつつ、長期的な視点でAIと向き合っていく必要があるでしょう。また、システムとルールの両面からのリスク管理や、社員のリテラシー向上など、多角的な対策も求められます。ここでは、銀行・金融業でAIを成功裏に活用するための4つのポイントを詳しく解説していきます。

  • 中長期的な視点でのAI活用戦略の策定
  • 断続的なAI開発・改善の必要性
  • システムとルールの両面からのリスク管理
  • AI活用リテラシー向上のための社員研修

中長期的な視点でのAI活用戦略の策定

中長期的な視点でのAI活用戦略の策定とは、AIをどのように自社の競争力強化につなげていくのか、中長期的なビジョンを持って取り組むことを指します。AIの活用は一朝一夕には実現しません。試行錯誤を重ねながら、徐々に成果を積み上げていく必要があるのです。そのためには、経営層を含む全社的な合意形成が不可欠だと言えます。

AIをどの業務に適用し、どのような効果を目指すのか。そして、そのために必要な投資やリソース配分をどう行うのか。こうした具体的な計画を、中長期的な視点で練り上げていく必要があります。この戦略策定が欠けていると、場当たり的なAI活用に陥り、十分な成果を得られない恐れがあるのです。自社の強みと市場環境を冷静に分析し、AIをどう経営戦略に組み込んでいくのか。その羅針盤となる長期ビジョンを持つことが、AI活用成功の大前提だと言えるでしょう。

断続的な開発・改善の必要性

断続的なAI開発・改善の必要性とは、一度構築したAIシステムで満足せず、常に進化させ続ける姿勢が重要だということを指します。AIの世界では、日進月歩で新たな手法や技術が生まれています。この変化の波に乗り遅れれば、たちまち陳腐化してしまうでしょう。常に最先端の技術動向を追い、自社のAIシステムに取り入れていく柔軟性が求められるのです。

また、実運用の中で見えてくる課題や改善点を、機敏にシステムにフィードバックしていく必要もあります。ユーザーの声に耳を傾け、より使いやすく、より高性能なシステムを目指す。そうした不断の努力があってこそ、AIの真価を発揮できると言えます。PDCA サイクルを回し、継続的にブラッシュアップしていく。その積み重ねが、AIシステムの完成度を高め、ひいては活用の成功につながっていくのです。

システムとルールの両面からのリスク管理

システムとルールの両面からのリスク管理とは、AIシステムのセキュリティ対策と、AIを適切に利用するためのガバナンス体制の整備を、車の両輪として進めていくことを指します。AIシステムには、大量の個人情報や機密情報が集積されます。その保護なくして、AIの活用は成り立ちません。堅牢なセキュリティ基盤を構築し、外部からの不正アクセスを防ぐとともに、内部からの情報流出も防がなければなりません。

加えて、AIを適切に利用するためのルールづくりも欠かせません。AIの判断をどこまで信頼し、どのように人間の意思決定と組み合わせていくのか。その基本方針を明確にし、全社で共有する必要があります。AIに関する倫理規定を策定し、プライバシーの保護や差別の防止にも配慮しなければなりません。こうしたルールを整備することで、AIの誤用や悪用を未然に防ぐことができるのです。システムとルールの両面から、リスクに目配りした管理体制を築いていく。それがAI活用の健全性を担保する上で、欠かせないポイントだと言えます。

AI活用リテラシー向上のための社員研修

AI活用リテラシー向上のための社員研修とは、AIを実際に利用する社員一人ひとりが、AIに関する正しい知識と心構えを身につけることの重要性を指します。AIは、あくまで業務を支援するツールです。それを使いこなすも殺すも、利用する人間の腕次第。だからこそ、AIの特性や限界を正しく理解し、適切に活用するスキルを養う必要があるのです。

そのためには、全社的な教育プログラムの整備が不可欠です。AIの基本的な仕組みや、活用事例、留意点などを体系的に学べる研修を用意し、全ての社員に受講させる。加えて、より実践的なスキルを身につけるため、OJTやワークショップ形式の研修も効果的でしょう。こうした学びの機会を通じて、社員のAIリテラシーを底上げしていく。それが、AIの効果的な活用につながり、ひいては成功のカギを握ると言えます。

まとめ

本記事では、銀行・金融業界におけるAIの活用について、その重要性や具体的な活用事例、メリット・デメリット、成功のポイントなど、多角的に解説してきました。AIは、業務効率化やセキュリティ強化など、様々な面で銀行・金融業界の革新を促す存在です。一方で、個人情報の漏洩やAIの過信など、運用面でのリスクにも十分な注意が必要不可欠だと言えます。

こうしたメリットを最大化し、デメリットを最小化するには、中長期的な視点に立ったAI戦略の策定と、継続的な改善の取り組みが肝要です。加えて、システムとルールの両面からのリスク管理や、社員のリテラシー向上といった課題への対応も欠かせません。AIの活用は、一朝一夕に実現できるものではありません。トライアル&エラーを重ねながら、地道に取り組んでいく必要があるのです。

銀行・金融業界は、これからますますAIの導入が加速していくことでしょう。しかし、単なる流行に乗るのではなく、自社の経営戦略にどう組み込んでいくのか。その長期的なビジョンを持つことが何より重要だと言えます。AIの可能性を最大限に引き出し、新たな金融サービスの創出につなげていく。それが、AIの活用に取り組む全ての銀行・金融機関に求められる姿勢ではないでしょうか。